意地悪な両思い
「で、どっち?」
ぐいっと彼はまた詰め寄ってくる。
「…あ」
「あ?」
「あお!青です、信号!」
彼の左肩を二つほど叩いて前を指さした。
前の車がのろのろと動き出したのを横目で彼も確認すると、仕方なさそうに前に向き直って車を発進させる。
「信号に助けられてよかったね。」
「何の話ですか?」
とぼけちゃってとつぶやく彼を半分無視して、明後日の方向を私は向いた。
……車多いな。
そうして窓から外の景色を眺めていると、通勤ラッシュは当に終わっているはずなのに車が多いことに気づく。会社へ向かう時にバスが通ってくれる道とは反対のせいか、大通りだってのにあまり見慣れていない。
この時間帯に出かける人多いんだ。
じゃぁ、映画も混んでいるのかな―――って待って。
それだとやばくない?
会社の人にばったり偶然出くわすとかあっても……。
「市田?」
「はい!」
急に声をかけてきた速水さんに、一瞬びくつく私の肩。
「なんか面白いもんでも見えたの?
そんな外見て。」
「あぁ、いえ特に理由はないんですけど…」
車が多いなぁって。
「そっか。」
心配してくれている風の速水さんに、こくんと私は頷いて見せる。
「もうちょっとかかるから良いこしててね。」
良い子って……
「……良いこしてますよ。」
まぁ大丈夫だね。
こんな調子の速水さんだったら、うまいことその場を切り抜けてくれるだろうから。
ともあれそれ以上子ども扱いされないようにと、映画があるデパートに着くまで私は助手席でおとなしくしていた。