意地悪な両思い
一緒の帰り道
週末明けの次の日の朝、普段通りの時刻で私は家を出る。
会社まで約20分。
いつにも増して眠気を感じるのは、当然のことながら昨日した遥との電話のせいだろう、会社までの道中こぼれる欠伸の大きさも数もおかしかった。
着くとすれ違う人皆に挨拶をこぼしながら、羽織っていた上着を脱ぎ椅子に掛ける。
「市田、鞄置いたらあとで来てくれる?」
「はい。」
するとすぐにそう声をかけてきた上司の長嶋さん。朝から忙しくしているのか、既に手元へたくさんの書類を抱えオフィスルームを歩きまわっている。
待たすのが悪いと思った私は、鞄を置いてすぐに彼の下へ駆け寄った。
そうして「はいこれ」と手渡されたのは、A4サイズの見覚えのある書類の束。
そこに真四角の大きな付箋が見えるだけでも3つは付いてて、長嶋さんは特に何も言ってくれないけどそれが私に何をすべきなのか教えてくれている。
まぁ要するに―――企画書を見直せってこと……。
「あとこれみんなに配ってほしんだけど。」
「は、はい。」
続けて渡してきたのは、10枚ほどに束ねられた先ほどのよりも小さめのB5サイズの用紙。付箋はないが代わりにアンケートと上部に題して、お利口に数字がいくつか並んでいる。
けど、社内アンケートなんて珍しい。
というかそんなもの見たことなくって
「3年ごとに社内旅行あるの、市田知ってる?」
そんな戸惑いの様子に気づいたのか、長嶋さんは私が尋ねる前にそれが何か教えてくれ始めた。
「あ、えっと、ちらっとどこかで聞いたような。」
確か福利厚生の一部で、3年ごとに会社全体で旅行を行うんじゃなかったかな?
「うん、それのアンケート。
どんぐらい参加するかーとか、どこに行きたいとか希望あるかみたいな。
まぁあんまり採用された試しなくて、結局毎年定番の温泉なんだけど。」
彼はアンケート用紙を苦く見つめた。
「市田温泉好き?」
「うーん、そうですね…。」
子供のころ家族で行ってたきりだと思うけど、妙にお風呂上がりに飲んだ牛乳のことが印象ぶかいっけか。
「でも大人になってからは、一回も行けてないんですけどね。」
それこそ遥と行ったりだってしたいけど、休みの予定を合わせる大仕事の前に断念しちゃってる。
「まぁ若干面倒だけどさ、ほかの部署との交流もできて勉強になるよ。」
旅行の予定は12月だから、まだまだだけどと最後彼はつけたした。