意地悪な両思い


 そんな風に品川さんと話している一方で、
速水さんも速水さんで早く帰れるよう忙しなく仕事をこなしていたみたい。


 現に朝から電話対応に追われているし、
午後にはお得意様との大事な商談が控えているから、
午前の間に済ませておきたいことが山のように積もってもいる。

しかし、自分の仕事だけしてるわけにいかないのが上の者の常。



「速水さん、この間のB社が
また話を伺いたいとおっしゃられてるんですが、」

「分かった。
木野、いいよ繋いで。

あ、内川悪い資料出しといて。」

「分かりました。」
 こんなふうに、
相手からかかってくる電話の応対に邪魔されることも少なくない。



もちろん

「速水さん△社に話をとりあえず聞いていただけることになったんですけど、ちょっと悩んでて。」
 なんて俺の忙しさを無視して、
問答無用に内川から質問攻めにもあったりするし。

「速水さーん、
××会社がもう少し早く準備できないかって催促が。」
 そんな相談にも応じないとだめだし。


「内川、雨宮さんの所に
進捗状況確認行ってくれたか?」

「一昨日確認した時には、
予定より1日分ぐらい遅れてるって言われてました。」

「そうか…。」
 準備早くできないかって言われてる以上、こればかりは下の部署と相談してみないといけない。あくまで俺たちは応対の代表みたいなもんで、実際してくれてるのは雨宮さんたちだ。

「分かった。
丁度昼、俺もした行く用事あるからお前は昨日頼んだヤツ仕上げて。」
 木野はこれメール送っといて。



 こんな目まぐるしいやり取りを、出勤して1時間も経たないうちに味わったんだから今日は相当イレギュラーなことに振り回される日なのだろう―――市田が家にくるってのに。


頼むからこんな日に限って問題が起こらないでくれよ……!

< 58 / 140 >

この作品をシェア

pagetop