意地悪な両思い
そんなせつな俺の願いが通じたのか、
はたまた普段の行いがいいからなのか(市田に言ったらそれは否定されるだろうけど)
「はぁ……、何とか終わった。」
時計の針が3つ回ろうとする前、
思ったよりも早くに午前中のノルマを終えることができた。
とはいっても、当然努力だけでは事足りず、
結局のところ期限が今日でないものを徹底的に排除していっただけ。
俺のデスクの端っこには、
先延ばしにした書類の束がタワーのように積み重なってる。
来週がオソロシイことになりそうだがともあれ、この調子だと6時30分頃には仕事を終えることができる。午後も馬車馬のように働かなきゃだが、市田とお家デートできることに引き換えたら軽いもん。
というか望むとこだってんだ。
けど市田はどうだろう。
今日に限って残業とかになったりしないよ…や、市田ならありえる。
絶対ありえる。
思わずくすって笑ってしまいそうになるぐらい、彼女は“そんな”娘なんだよな。
俺はちらりと彼女のデスクの方を覗いてみた、
と。
「速水さん、一息つけそうですか。」
「お、びっくりした。」
その俺の視線を奪うかのように、
首を傾けて目の前に侵入してきた木野。
ひと段落ついた人みんなにコーヒーを配ってたのか、お盆を片手に最後のコップをデスクに置いてくれる。
「そんなびっくりしなくても。
速水さんこそどうしたんですか?
あっちの方ずっと見てましたけど?」
「いや、長嶋のとこ後で行かなきゃだから、アイツいるかなと思って。」
相変わらず変なとこ鋭いよな。
下手に誤魔化すと逆に怪しまれるから、
不本意ながら長嶋の名を俺は借りることにした。
「んー、そうですか。
いつもありがとうございます、速水さん。」
「…や、別に。」
ふたつ、みっつ追及されると思っていただけに、素直に引かれると逆に驚いてしまう。俺はこくっと一口コーヒーを含んだ。
彼女も、俺の隣のデスクに座って、ふうふうと可愛らしくコーヒーを冷まし始める。
「内川くんお昼いかれてますよ。
あと、鈴木さんとかも。」
「そっか。」
彼女が教えてくれた通り、
見渡すと俺たち以外にデスクに座ってる奴はいない。
そういうのを管理するのも俺の仕事なんだけど、
さすがに今日は余裕がないらしい。