意地悪な両思い

「誰だと思います?」

「さぁ?」
 長嶋か?


それともやっぱり、


「それがみんなこぞって雨宮さんの名前出すんですよ。」
 ―――――あぁ、当たってたか。


そうだと思った。
第一雨宮さんの方に好意があるのはあからさま出しな。
市田ちゃんは気づいてないけど。


まぁ本当は本っっっっ気で嫌だけど、


「みんながそう言うんならそうじゃない?」
 ここは同調しておいて、それでもって

「けど、本人たちが内緒にしたがってるなら、もうそれ以上噂するのはよくないと思うけど。」
 そこそこにしとけと俺は彼女を制する。


 上司として教科書通りの制止かた。
これで少しはおとなしくなるといんだけど。

そろそろ仕事戻りたいし、っていうかその雨宮さんに今から会いに行こうと思ってたところだし。


「まぁそうですけど~。
私は絶対速水さんだと思ったんだけどなぁ。」

「……あぁそう?」
 ここは冷静に。相手にしないように。

「まぁでも、私もあんなところ見ちゃいましたからね~。
あれ見たら雨宮さんだって思っちゃいますよね~。」
 ところが彼女のそんな一言で、俺のアンテナがぴくっと反応してしまう。


そんな俺の一瞬の変化に気づいた彼女は、

「気になります?」
 と、にやつきながらすぐに追及。

「…や、別に。」
 必死にそう平常心を装いながら、やらかしたと俺は内心でひどく悔やんでいた。


「ふ~ん。じゃぁ…」

「なに?」
 そんな絶好のチャンスを逃してくれるはずもなく、続きをなかなか発しない木野に、俺から今度は尋ね返す。


「気にならないなら言ったっていいですよね?」


「は?」

「だって気にならないんですよね?
雨宮さんと市田さんが陰で何してようが。

なら言ったって速水さん何も思わないですよね?」
 またしてもそこでお得意の笑顔を浮かべる木野。

「や、その理由おかし、」
 そうして言葉を発した時にはもう遅かった。


彼女は椅子から立ち上がると俺の耳元にふわっと口元を近づけた。
そして、偽りの言葉を甘くあまくささやく。

――――それが、彼女の罠だと知っていても。

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