意地悪な両思い
パタン、パタン―――私は一段一段階段を降りていく。
クリアファイルにいれた手元の資料を片手に握りながら、これを渡したらお昼にしようとマイペースなことを考えていた。
雨宮さんいるだろうか、
お昼時だから彼ももしかしたらお昼をとっているかもしれない。
クリアファイルだけとはいえ、邪魔するの申し訳ないなと思いつつ…下の部署の扉に手をかけたその時
「あれ、市田さん?」
「雨宮さん!」
振り返らずとも声色で分かった。
「どうしました、今日は夕方からじゃなかったですか?」
パタパタと速足で駆け寄ってきた彼。どうやらエレベーターから降りて来たらしく、買い出しにでも行っていたのかその手には白い小さな買い物袋がふたつぶら下がっていた。
「はい。今来たのは手伝いとしてではなく本職で。
この書類を渡しそびれてて。」
「そうですか、頂きます。」
そのまま彼はクリアファイル越しに軽く目を通す。渡したのはこの間依頼がきた、商店街の案件のもの。長嶋さんにだいたいでいいからまとめて、もう渡しときなって言われたんだ。
「商店街……あれ、市田さん前もしてなかったですっけ?」
「そうです。嬉しいことに、評判がよかったみたいで話を聞いた方がうちもって依頼をくださって…。」
その時も長嶋さんと一緒にしてたんだけどね。
「また本格的に始まったらよろしくお願いしますね。」
「もちろんです。」
雨宮さんは任せてくださいとばかりに、クリアファイルをぎゅっとして見せる。
「でも市田さん大丈夫ですか?」
「え?」
「無理してないですか?
この案件もありますし言えないだけで、実は忙しんじゃ……」
「あぁいえ、そんな!それも来月から取り掛かりでまだ全然余裕があって!」
私は安心させようと両手をブンブン思わず振って見せる。
「なら良いですけど。
言ってくださいね、ちゃんと難しいときは難しいって。」
「大丈夫ですよ。
それに手伝いも楽しんです。
毎日勉強というか、これってこんなだったんだ!って発見もあって。」
まだ心配そうに見つめてくる彼を安心させようと私は明るくふるまう。
けど、今の言葉に嘘はなくって本当に手伝いに行かせてもらえてよかったって思ってる。
面白いからってのももちろんだけど、イベントの計画を立てるときも多面的に考えて練れるようになったんだ―――準備の面とかかかる時間とか。
もちろん前だって考えてたつもりだけど。