意地悪な両思い
「今日お手伝い15時頃になると思うんですけど、大丈夫ですか?」
「それはもちろん大丈夫です。
今のところ特に問題ないので。」
彼はポケットから携帯を取り出して、通知を一応確認して見せる。
「じゃぁそれぐらいにまた伺います。」
「お待ちしてます。」
「雨宮さんは、まだお仕事ですか?」
「あぁいえ、あとちょっとしたらもうお昼とろうかなって。
丁度足りないものがあって買い出しがあったんで、お昼も買ってきて。」
今日は唐揚げ弁当ですと、袋の中を見せてくれる彼にお、いいですね!と私は微笑む。
「市田さんもこれからお昼ですか?」
「はい。キリがいいので。」
「お弁当持ってこられてるんでしたっけ?」
「そうですそうです。
残念ながら今日は唐揚げ入りじゃないんですけど。」
冗談を落とした私に、え、一個いります?と彼が笑い返す。
代わりにエビフライが入ってるんで大丈夫ですと言うと、今度は羨ましそうに雨宮さんが私を見た。
「じゃぁまた後ほど。」
そうして世間話をしている間に、階段から足音がしてちらちらと部署に出入りする人が多く見え始めたのでこの程度にとぺこっと礼をして私は立ち去ろうとする。
「あ、市田さん。」
するともしよかったら…と、私の背に声をかけた。
「何ですか?」
振り返ったその時。
「雨宮さん。」
もう一つ聞きなれた低温が響いてくる。
背後にある階段から足音をたてて。
誰だかはもう分かってる、見なくたって分かる。
朝盗み見だってしてたんだ、その人のこと。
「速水さん。」
思わず、その名をぽつりとつぶやいた。
「お疲れ様です。」
パッと雨宮さんが視線を移す。
「すみません、お忙しいところ。」
「いえいえ。」
速水さんは私の隣で足をとめた。
「お疲れ。」
「お疲れ様です。」
緊張しながら私は彼に挨拶をする、変に目をあわせれない。