意地悪な両思い

「内川から一昨日ぐらいに聞いてたと思うんですけど、××会社の状況について伺いたくて。」

「あぁはい。
速水さんじきじきってことは……」

「そうです、今日も催促あって。」

「なるほど。」
 同じような苦笑いを浮かべる彼らに、詳しくは知らない私までもつられた。


「結構優先させてやってるんですけど……ちょっと確認してきます。
待っていただいてもいいですか?」

「勿論大丈夫です。
無理言ってすみません。」

「いえ、速水さんが謝ることでは。」
 雨宮さんは駆け足で部署にガチャンと入っていった。


 廊下に残された私たち。

「もう手伝い?」

「いえ渡す資料があって。」

「そっか。」
 こくんと私は頷く。


「あのさ、」

「どうしました?」
 そこではじめて彼の目を見つめれた。


少しの沈黙の後、


「や、やっぱいいや。」

「え?」
 彼は口にするのをやめ、何でもないとにこって微笑んで終わる。


何もないならいいけど……けど。


それっきり速水さんは珍しく無駄に話しかけてこない。

オフィスのど真ん中でも、顔色を変えずに問答無用で話しかけてくる彼が、人気のない廊下で何なら黙ってふたりで立ってる方がおかしいのに。


「速水さん……?」
 思わず名前を呼んで、

「なに?」

「いえ、なんでも。」
 そう言ってくれた感じは別段普通だし、仕事がたいへんだから不機嫌なのかと思ったけどそうでもなさそう。

でも若干感じる違和感。変な距離感。


わたし、何かやらかした?

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