意地悪な両思い
そう思っても理由を聞けないまま、
「お待たせしました。」
何十秒も経たないうちに、パタンと雨宮さんが部署から飛び出してくる。
「えっと、やっぱり頑張って数日短縮できる程度というか…今も遅れてる状況なのでなんとも…」
引っ張ってきた関係書類をパラパラとめくりながら、申し訳なさそうにこたえる彼。
だが、一方の速水さんも想定の範囲だったようで、後ろ髪をかきながらも
「あーですよね。」
と雨宮さんに笑いかける。
傍から見ていた私はてっきりその後、速水さんが雨宮さんに無理をお願いするのかと思ったけど、
「××は無茶なこといつも言い過ぎなんですよ。
この間営業行ったときも大変で。」
って愚痴をはくだけで、決して彼にそれ以上の要求をしようとしない。
そして雨宮さんも、速水さんの愚痴に相槌を打ちながらしかし困りましたねと弱った表情を見せる。
いうなれば、阿吽の呼吸―――速水さんは速水さんで下の部署のことを、雨宮さんは雨宮さんでそんな彼の性格を理解して。
雨宮さんが速水さんのことをやり手って言った意味は、こういうとこも含めて買ってるからなんだろう。速水さんがこんなふうに雨宮さんと仕事してるなんて知らなかったけど。
あーあ、悔しいけどやっぱり恰好いいや。
こうして仕事している姿をすぐ近くで見れるなんて、なんて贅沢なんだろ。
私はちらりと彼を盗み見た。
「まぁ、あとで良いように言っておくんで、申し訳ないんですけど、報告だけ細かくいただいてもいいですか?マメに先方とコンタクトするようにしますから。」
「それはもちろん。
いつも遅れてばっかりですみません。」
「いえ、最後にはちゃんと計画通りに終えてくださるって分かってるんで。」