意地悪な両思い
内川くん、内川くんはと。
隣の部署へ歩み寄っている間も、彼の姿を視線で探す。
……あれ。
しかし、隣の部署へ着いたというのにいつも座ってる席に彼の姿はないし、彼らしき存在も辺りには見当たらない。
それならば緊張しちゃうからあんまり会社で話したくないのだけれど、最終手段の速水さんにと思ったが、彼も今は席を外しているらしく空振りに終わった。
んーどうしよっかなぁ。
唯一そのふたり以外で飲みに行ったことがある、女社員の木野さんも今はいないし、
こんなにも全員が全員いないなんて、ひょっとしたら会議でもしているのかもしれない。
まぁ、つくえの上置いておけばいっか。
そんな話したことがあるか分からないような社員さんにわざわざ声をかけてまで、伝言を頼むようなことでもないよね、?
特にメモを落とさないでも、デスク上に置いたアンケート用紙を見たら内川くんもすぐ意味が分かるだろうし。
「お疲れ様です。」
そうして私は、椅子に座ってお仕事に向かっていらっしゃる何人かの人たちに挨拶をこぼして、彼のデスクに用紙を忍ばせた。
これでオッケー、さてさてお昼。
速水さんと顔を合わせることになっちゃうかもって、向かう前はどきまぎしちゃってたけどそいつは余計なことだったらしい。
ぐーんと伸びをしたい衝動を抑えながら、そっと隣の部署から私は離れていく。
「市田。」
すると不意に私の名前を誰かが呼んだ。
声が聞こえてきた方向からして、階段に通じる扉がある方向からだと思う。
ぱっと振り返ると―――う。
速水さん。
「何してんの?」
ガチャンと彼は後ろ手で扉を閉めた。
「…お疲れ様です。」
一方の私はというと、ちょっとためらいながらやっとこさ声をこぼす。
周りをきょろきょろ軽く見渡して、木野さんがいないことに軽く安堵した。
木野さんは速水さんのことがおっかないぐらい好きだからね。
それしたってよりによって、話しかけてくるのが階段前なんてな。
メインルームでそこはケッコウ目立つ場所なんだぞ、
速水さん分かってる?
「アンケート用紙の余りがないかって内川くんに頼まれて。
それで。」
「あぁ、そっか。」
そう返事した速水さんは外にでも出ていたのか、鞄を手に提げていた。