意地悪な両思い

 という訳で、再決戦の金曜日。
18時半を過ぎた頃で仕事を終えた私は、いつもとは逆方向のバスへと飛び乗って彼のマンション近くのバス停へと降り立った。


速水さんのマンションまでは約徒歩5分。
すぐ近くには小さめな川が流れてて、周りには同じくビルとかマンションが比較的多く建っている。

そんな彼の部屋は、7階の702号室だ。


歩いてるくせに、まるで走ったあとみたいな速さで鼓動する心臓に、落ち着け―といい聞かせる。


『速水さんはまだ帰ってきていない。』
 言い切るのにはわけがあって、実は前もって今日何時に終わるのか聞いてたから。

20時までには帰れるみたいだけど、
それでも19時半は過ぎちゃうらしい。


「市田より早く帰るのが心苦しい」
 そう彼は私の嘘(残業で遅くなるから一緒に帰れない)をすんなり信じて言うもんだから、やっぱり思う所がある。

品川さんみたいな、
時には小悪魔な、恋愛上手さんになるにはまだまだかかるみたいだ。


 と、そうこうしているうちに彼のマンションが見えてくる。

時計の針は19時を回った頃。
あと30分、彼のマンション前で立っておくのも精神力がなかなかあれなので、同じく歩いて5分所にある小さなスーパーで軽く買い物をすることにした。


とりあえずお酒、おつまみ。
あと冷蔵庫に何もなかった時のために、ちょっとした料理ができる程度の食材。

まだ余裕があるとはいえ、
彼が早めに帰ってきてはいけないのでそれほど時間はかけられない。


10分ほどで買い物を終えた私は、速足気味でマンション前へと戻った。

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