意地悪な両思い
いつも車通勤の彼は、おそらくまずマンション裏にある駐車場へと車を停めに行く。その後、私の斜め後ろにあるこの正門玄関へ向かってくるはずだ。
裏門ももちろんあるらしんだけど、どうやら今セキュリティ強化の工事をしているみたいで当分の間使えないらしい。
不便と彼はつぶやいていたけれど、今の私にとっては好都合。
だって、さすがに裏門付近にずっと立ってたら、
不審者だって通報されたって文句いえない。
―――速水さんまだかなぁ。
待っている間、何人かの住人が中に入っていく。
扉こそ大きくはないものの、速水さん家の玄関の壁は木目デザインで、エントランスから洩れてくるオレンジ色の光はなんとも小粋。
何でだろうな、インテリアマジック?私の好みのドストライクだからって理由もあるだろうけど、入っていく住人さん全員がぜんいん、お洒落に見えてしまうのは。
たとえもし3日お風呂に入ってないって言われたって、この明かりの下では信じることはできなさそうだ。
もう一度そこで携帯を取り出す、19時35分。
また新たに足音が聞こえてきた。
大きさからして、おそらく男の人。
「こんばんは。」
そう、今まで見届けてきた住人さんたちがしてきたように、その人もこちらに一瞬目線をやって私に挨拶を一つ落とした。
私もそれが誰だか分かっていながら、他人のようにこんばんはって返事する。
大抵、私も意地悪だ。
そのままサイアクスルーされてしまうかと思ったが、ワンテンポ遅れて気づいたその人は「は!?」と驚きながら、ぱっと視線をもう一度こちらへ向けた。
私はそのタイミングで、口を開く。
「……突撃しちゃいました。」
やっぱり無茶しすぎ?
自然と下がった目線を、地面から頑張って彼へと移動させた。
そうしてまた一歩歩み寄る。
藍色のスーツは現在たくさんのしわを刻んでる、
「あ、え?市田?え!?ちょっとタンマ。」
だって速水さんは動揺してるのを隠すように、目を丸くさせて手の甲を口元に当ててるから。
「最近一緒に話せれてないから…。
ごめん、メーワクでしたよね?」
「や、そうじゃなくて。ちょっとびっくりしすぎて。
…おー、そっか。」
それまで人4人分ほどあった距離を、彼はぐっとすぐ近くまで一気に埋めてくる。
「とりあえず入ろっか?」
彼の言葉にこくこくっと何度か頷く私。
「ん。」
彼は私が手に持ってた買い物袋を持ってくれた。