意地悪な両思い
6人用のエレベーターをあがりながら、彼は「いつから待ってた?」って聞いてくる。
「買い物もしてたしそんなにですよ。
19時30分前とか。」
「そっか。
ごめん、夜電話しようとは思ってたんだけど。
ひとりで待って心細かったろ?
エントランス前で待つなんて。」
「ううん、勝手に突撃したのはわたしだから……
ありがとう。」
改めて思うけど隣に速水さんがいてくれるだけで、こんなに安心できるんだね。
「申し訳ないな~とか考えてた?」
「……そりゃもちろん。」
「なんだよそりゃって。」
笑う彼の横で、丁度よくポーンとエレベーターが開く。
「こっち。
……って分かるか?二度目だもんな。」
だねと笑う私にそこでも可笑しそうにしながら、左へ曲がって奥から2番目の扉の前に立つ。
「荷物持ってようか?
かぎ…」
「や、すぐ出せるからいんだけど。」
そういった通り、ポケットからそれは出てくる。
「あのさ。」
「え?」
速水さんはぐっと鍵穴に差し込んだ。
「かなり嬉しいから。
さっきはちょっとびっくりし過ぎてあれでしたが。」
「あ、うん……うん。」
照れくさい私は思わず俯く。
「……どうぞ。」
こくんと頷きながら中へ入った。
「ちょ、ごめん散らかってるけど…。」
「ううん、お邪魔します。」
落ち着いてる彼の部屋。
散らかってるなんて嘘だ。
玄関で靴が散乱してるなんてことはないし、リビングも目立った乱雑さはない。
ただ、テーブルの上は仕事の書類でいっぱいになってて、ここのところの速水さんの忙しさを物語ってる。
「ごめん今片すから。
どこでも座っていいよ。ソファ座れば?」
そうして一気に一か所に書類をかき集めると、そばにあるチェストの一番上にしまいこむ。
私はというと、速水さんが勧めてくれた通りにソファの端っこへ腰かけた。
「何買ってきたの?
ちょっと重かったけど。」
「あ、えっと大したもんじゃ。」
買い物袋を覗く彼に、私は席を立って傍へ寄る。
「お酒とスルメと、なんかお鍋食べたくって……。
お肉とちょっと野菜を。」
「いいね、鍋。作ろっか。」
私はこくんと頷いた。