意地悪な両思い

「教えてほしいな。」
 うずめている顔を私はあげた。

速水さんが自分から、こんな風に話そうとしてくれるの珍しいもの。



そりゃすっごい嫌そうだけど、!

現に、見んなとばかりにぐいっと私の頭を自分の胸に押し返してきたし。
今もそっぽを向いて、むすっと顔を作っているし。

だからって負けれない私は、服に唇が当てがられてふごふご喋りになろうが一向にひかない。



「あーえっと。」
 とうとう観念した彼は、

落ち着かせるようにため息を一つだけこぼして


「まぁ簡単にいうと……妬いてて。」
 人差し指で照れくさく頬を2、3度かいた。


「え!」
 たまらずまた顔をあげると、だから見なくていいから!と勢いよく私の頭をまた自分の腹に押す。

速水さんの体にすっかりうずまりながらも、

「どういうことですか?」
 と辛うじて言葉を発することができた。


「まぁ……ちょっととある人から、変なことを聞いて。
雨宮さんといつも夜二人で残ってるとかそういう類のあれなんだけど。」

「え!?」
 誰が言ったの、そんな嘘!

「そんなこと!一度も!」

「俺も分かったってすぐ。
そんなの嘘だって。

そうだとしても市田は絶対教えてきてくれてると思ったし。」


「うん。」
 信じてくれてるならいんだけど。


でもそれならどうして?



「けど、雨宮さんがお前のこと良い風に思ってるのは丸わかりだし。」

「え?」

「他の奴らも、市田のこと最近色眼鏡で見てるし。」

「え?え?」
 じろりと彼は私をみつめる。


「君はもうちょっと危機感をもちなさい。
だいたい、俺もにやけそうになってんだぞ。


俺のこと速水さんって駆け寄ってきてくれたりするときとか、今日だってそんな可愛い恰好してきて。」
 まるで悪いことをした教え子を諭す教師みたいに話す速水さん。

「は、はい。」
 思わずお利口に私もお返事。

「分かればよろしい。」
 あー俺、何言ってんだろ恰好わりいと呟きながら、私の頭をまた優しく撫でてきた。


「えーっと。」
 いろいろ言われて、頭の中パニくってるんだけど。


……結局のところ、やきもちってことでいいのかな、?



「いつも市田は、俺のこと余裕だって思ってるんだろうけど、」

「うん思ってる!」

「だからそれが違うくて。」
 彼は私を撫でる手をぱたっと止める。


「本当に余裕そうに見せてるだけなんだよ。

俺も結構必死です。
それに今日だって、雨宮さんにごはん誘われそうになってるし。」


「あ、あれは、仕事の話をしてて!」
 ぱっと彼の懐から私は逃げると、姿勢を正して彼の顔を見つめなおす。


でもちょっと待てよ?

速水さんがそう気づいてたってことは―――雨宮さんがご飯を誘おうとしてたって分かってたってことは。


「もしかして。」



「そう分かってたからあのタイミングで間に入ってきたんですか?」


「……市田うるさい。」
 速水さんは私の頭をがしゃがしゃとかき回す。

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