意地悪な両思い

 いつもならそう髪を乱されて嫌がる私だけど、今日は髪をおろしてるし、

それに例えメイクを落とされよーが、
はたまた泥団子をぶつけられよーが今だけは平気な気がする。


「へへっ、嬉しいなぁ。
速水さんがやきもち妬いてくれてる。


大好きだって言ってくれてる。」


「大好きだとは言ってない。」

「ほっぺた赤いですよ?」
 笑う私に

「うるさいなー。」
 と戸惑ってる速水さんは、からかわれて困ってるいつもの私みたい。


「私も速水さんのこと大好きですよ。」

「はいはい。」
 軽くあしらって、良い匂いを漂わせてる鍋の様子を伺う彼に、つれないなぁと私はお皿を出す。

そこに入ってるからと、引き出し2番目から取り出すように速水さんが教えてくれた。

「これでいいですか。」
 取り出した、茶色の手のひらサイズほどの小皿を見て、彼はありがとと頷く。


「しかし、夜が楽しみだね。」

「え?」
 お皿を持って、テーブルに並べようとしていた私に変に彼は含み笑いをしてみせる―――なんか……嫌な予感が。

「俺のことからかって、覚悟はできてるんでしょ?


市田ちゃん?」


「……ふぇ!?」
 形勢逆転。

浮かれて、速水さんのことをからかった私だけど、なんてことをしてしまったんだろう。


すっかり今が夜だってこと、
そして速水さんの家だってことを忘れてた。


「こ、これ机に持っていきますね。」

「うん、俺も鍋持っていくから。」
 彼はがちゃりとガスを切る。


「は、速水さん?」

「ん?」
 不自然に笑顔を見せる彼。

「ゆ、許してくださいって言ったら…」

「ん?」
 なに、市田ちゃん?とわざとらしく聞き返してくる。


「や、何でも。
へへー、お鍋楽しみですね。」
 だめだ、今は話を逸らすことぐらいしかできない。

あーあ、調子乗ってからかうんじゃなかったや。


そうして食べたお鍋から、出てくる若干の汗には他意も込められてそうだった。

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