意地悪な両思い

 けどくやしいから、
心内で速水さんより先に一本飲んでやろうと軽く決意したんだ。

そんでもって、もうなくなったもんねーって見せびらかしてやるんだから。

良い音を二人してたてて封を開けると、
軽く缶をコツンとあてて一口含んだ。


 テレビの中は変わらずバラエティ番組のままで、私が好きな坊主の芸人さんと、少し癒し系のその相方さんが所々に登場する。

どうやら速水さんも最近はまっているらしく、
毎週この番組はチェックしてるらしい。

8時からスタートの1時間番組で、9時を迎えた今いつもなら終わってる時間だけど今日は2時間スペシャル。10時までやるんだからラッキーだった。


二口めを飲んで、テレビを見ながらふふふっと私は思わず笑う。
一方の速水さんは、ワンテンポ遅れて同じように破顔する。

それが2、3度続いたから


「笑いのポイント似てますね。」
 嬉しくてそんなこと口走っちゃったけど、

「え?俺、市田の反応見て笑ってたんだけど。」
 なんて私のことからかうんだから、本当可愛くない。


「あ、てか俺勝手に思ってたんだけど…」

「なんですか?」
 私の笑い顔が間抜けとかそんなこと言って来たら、今度こそただじゃおかないぞ。


「いやそんなんじゃなくて、今日泊まってくんでよかった?」


「え?」
 一気に現実味を帯びた話に私は固まって、 

「ごめんお酒飲んでおいて今更だけど、
帰るんだったら送っていかなきゃと思って。

勝手に泊まりって決めつけてたけど。」


「あ……うん。大丈夫です。」
 そこで小さくこくんと頷く。


「……私もそのつもりで来たから。」


「うん。」
 速水さんも少し照れくさそうに頷きながら、そこで缶ビールを飲んだ。

私も居たたまれなくて同じくお酒に逃げる。
アルコールの味をなぜだか強く感じた。

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