意地悪な両思い
「お酒、全部飲めたんだ。」
「……え?」
「こぼれてないから。」
「あぁ……、うん。」
速水さんのせいで、すっかり止まってしまった脳みそをどうにか動かしてこくんと頷く。
何のことかと思えば、彼が言ってるのはどうやらすっかり放置しちゃってる私が飲んだチューハイの缶のこと。
今や寝室の扉近くまでころころと転がっちゃってる。
「速水さんよりも早く飲んでやろうと思ってたから。」
「なんだそれ。
あぁでもだからそんな顔真っ赤なの?酔いがまわって?」
耳まで染まってるし。
くすくすと笑いながら、彼は右手で私の耳に軽く触れる。
違うって分かってるくせに。
私が今赤いのは、あなたのせいですよ。
なんて言えないから、軽く彼をにらむ。
「ん?なに?」
「何でもないです。」
私はぷいっとそっぽを向いた。
相変わらず押し倒されたままだけど。
「お風呂入る?」
「先、入ってきていいですよ。」
ってこんな普通の会話。
もういい加減解放してください、速水さん。
そんな近くに顔を持ってこられたままじゃ心臓持たないんだよ。
そんなせつな願いが通じたのか、彼は私の背を支えながら一緒に上半身を起こした。乱れた髪と、いつの間にとってたらしい眼鏡を彼は掛けなおす。
テレビ番組もいつの間にやらすっかり終盤らしい。
見ていなかった間に何が起こったのか知らないが、
ふたりの芸人さんはすっかり泥まみれになっていた。
速水さんはぐいっとテーブルに置いてたビールを飲み干すと、テレビ見てなとチャンネルを私の傍に置きお湯張りのスイッチを押す。
途中一度ベランダに出たのは、どうやら下着類をとりに行ってたかららしい。
おそらく手に持って出てきただろうそれを見てしまわない様、
私はこれでもかってぐらいにテレビを玩味した。
速水さん「パンツ見る?」とかって、下手したらからかってきそうだし。
ってそんなことしたら本気で速水さん変態だけど。
だめだ、想像しただけで笑えてきちゃう。
「お風呂いってらっしゃい。」
「ん。」
彼はようやくお風呂場に入った。
ほどなくして聞こえてくるシャワーの音。
テレビの音量も少し小さくしたから尚のこと聞こえてくる。何だったら、彼が髪を泡立ててる音まで耳に入ってくるぐらい。