エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「美緒を助けに行ったんじゃない。奪いに行ったんだ」

 熱が込められている言葉の意味を上手く掴めないでいると、倉木さんがそっと腕を緩めてくれた。そして、私の頬に手を添えて、まっすぐに目を合わせてくれる。

「なん、で? 分かりません。どうして?」

 倉木さんの言葉も、とってくれた行動の意味も理解できない。吸い込まれそうな黒い瞳に見つめられ、鼓動が速くなり、息も苦しくなってくる。
 
「だって倉木さん、他にも相手がたくさんいるのに」

「いない。とっくに美緒だけだよ」

「う、嘘です。だってこの前、新宿で女性と歩いていたじゃないですか!」

 あまりにも迷いのない切り返しに、私はつい声をあげてしまった。すると倉木さんは、ぽかんとして、ややあってから微妙な顔になった。

「……見たんだ。あれ、うちの母親だよ」

「え!?」

 言い訳にしては苦しすぎるような、と思ったけれど、倉木さんの嫌そうな顔を見ると、どうやら本当らしい。たしかに私は後姿しか見ていないけれど。

「いや、若作りしているとはいえ、もういい歳なんだから、なんか恥ずかしいんだけど。しかも、また結婚するという報告で」

「それは、おめでとうございます」

 つい形式的に答えてしまったが、倉木さんは複雑そうだった。重たい気持ちを吐き出すかのように長く息を吐いて、再びこちらを見据えてくる。
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