エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「私なんて倉木さんと私服で会ったこともないのに、そんなこと言うなんて不公平です」

 意識しているのを誤魔化すために、私はわざとらしく唇を尖らせた。

「そうだね、でも俺の私服なんてべつに面白くもなんともないけど」

「面白いとか、そういうことじゃなくてっ」

 ついそこで言葉が途切れた。うなじに唇の柔らかい感触を感じて、勝手に体が震える。そのまま倉木さんはワンピースの後ろのホックをはずして、ファスナーに手をかけた。その一連の動作に、私はどうしていいのか分からず硬直するだけだった。

「はい、これで脱ぎやすいだろ」

 少しファスナーを下ろしたところで解放され、私はようやく恨めしく倉木さんの方に顔を向けられた。

「もっと脱がしてほしい?」

「十分、です」

 たしかに、自分でホックをはずしてファスナーを下ろすのは、なかなか手強かったかもしれないけど、素直にお礼を言う気になんてなれない。あまりにも倉木さんの手慣れている感に泣きそうになった。

「昨日は俺に付き合わせちゃったし、今日は気が張ってただろうから、疲れてるだろ。ゆっくりしておいで」

 それでも、優しく笑って頭を撫でてくれるので、すべてを許しそうになる。泊まっていくとは言ったものの、キスより先のことをしないとは言ってくれたものの、このあと、私はどうなるのか不安でしょうがない。

 倉木さんと私だと経験値の差がすごすぎるし。でも、やっぱり好きな人と想いが通じ合ったのは純粋に嬉しくて、そばにいられるのは幸せだ。自然と零れる笑みを倉木さんを見せないようにして、私はバスルームに急いだ。
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