エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「付き合ってるんだから、そんないちいち断りを入れなくていいよ。桜田さんが俺と過ごすのが嫌じゃなかったなら」

 言い直そうとしていた私に、倉木さんの発言は予想外すぎた。おかげで反応がワンテンポ遅れてしまう。

「ぜ、全然、嫌なんかじゃありません! 倉木さんこそ、私、気の利いた話、全然できなくて、その、むしろ申し訳ないのですが」

「んー。でも俺はこの時間、本読んだり仕事関係のことで勉強したりしてるから、あんまり喋られ続けても困るんだよね。もちろん話す練習をしたいなら相手になるけど」

「いえ、そんなっ! けっして倉木さんの邪魔はしません!」

 きっぱり強く告げると、倉木さんは笑ってくれた。今の発言のなにが面白かったのかは分からない。そして、倉木さんの右手がなんの気なしに私の頭に置かれた。

「うん、分かった。無理ない程度に、またおいで」

 まるで子どもにでも言い聞かせているような、そんな言い方。だから、こんな触れ方もそれの延長線上なのだ。きっとそうに違いない。

 ましてや相手はあの倉木さんなんだから。顔が赤くなるのを悟られたくなくて、私は俯きがちにやってきたエレベーターに乗り込んだ。

 結局、それ以上、倉木さんと会話することができず、そんな自分を後から悔んだりもしたけれど。

 きっとこの心臓の痛みは、私が男の人慣れしていないからだ。そうに違いない。しばらく私の頬の赤味は引きそうにもなかった。
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