エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 思えば、職場だけではなく彼にはプライベートだってある。私が絶対に踏み込めないそこで、女性と会ってデートしててもおかしくない。

「桜田さんとしてるつもりだけど」

 悶々と考えている中で耳を過ぎった倉木さんの言葉に、私の思考が止まった。すると倉木さんも驚いた表情になる。

「え、違う?」

「なにが、ですか?」

 会話と思考がかみ合わないまま、お互いの顔をしばし見つめる。すると倉木さんは困ったように頭を掻いた。黒髪が揺れるが、ヘアスタイルが乱れることはない。これは彼の癖なのだろうか。

「朝、カフェでふたりで会ってるのは、デートに入らない?」

 なんとも気まずそうに言われて、私の思考回路は再びフル稼働する。デートなんてしたことない。男の人とふたりで会ったことなんてない。だから、よく分からない、けれど

「そ、そんな。デートだなんて恐れ多いです! あれは、私が勝手にお邪魔しているだけで」

「あ、やっぱりあれをデートと呼ぶのは駄目だった?」

「駄目じゃないです!」

 もう、なにを否定しているのか私自身、よく分からない。倉木さんもどっちなの、と笑っている。だって、まさかデートと認識してもいいなんて思ってもみなかったから。

「桜田さん、誘われたからって考えなしに、ほいほいついていったら駄目だよ」

「ついていきませんよ!」

 また子ども扱いして心配してくる倉木さんに反論する。考えなしなわけない。しかし倉木さんは、どうも私の返事が曖昧だったからか、信じていないようだ。
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