エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 この言葉を私はどう受け取っていいのか困った。だって、これじゃまるで、自分が特別だって言ってもらってるみたいだ。

 けれど、これはきっと倉木さんの得意な営業トークだ。そうに決まってる。彼にとって私は、あくまでもクライアントなんだから。

 必死に心の中で言い聞かせていると、倉木さんが腕時計を確認した。いつもしているスイスの有名ブランドのものだ。

 シルバーのフレームに黒皮のバンドとシンプルだけど、文字盤が独特的なので、すぐに分かった。遊び心があるのが彼らしい。

「そうそう、俺、今日は残業決定だったから、会社で飯を食っておきたいんだけど、一緒に行く?」

 そもそもの呼び出しの内容はこちらだったらしい。私はしばし考えを巡らせた後で、躊躇いながらも頷いた。

「よし。じゃぁ、行こう。桜田さんって苦手なものとかある?」

「特にないですけど……あ、でも、春菊は少し苦手です」

「あー、分かる。ちょっと苦いし、食べづらいよね。俺もあんまり好きじゃない」

 ここで私は自分が制服のままだということを思い出す。

「あの着替えてきましょうか?」

「桜田さんさえ、かまわないなら、そのままでいいよ。それに、ちょうどいい」

 なにがちょうどいいのか分からず、尋ねようとすると倉木さんが先を続けた。

「今から行くのはノーカウントね。今度、改めてデートしよう。ちゃんと誘うから、待ち合わせをして、そのときは私服で来て」

 真面目に提案してくれたことが、なんだか逆におかしい。仕事だと認識しているからって、きっと倉木さんがこんな誘い方をするのは、色々な意味で私ぐらいだと思う。
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