エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「あの」

 私に気づくと、倉木さんは目を目張ってから、すぐに立ち上がって笑顔になってくれた。

「お疲れ。驚いた、いつもとイメージが違うから。よく似合ってるよ」

「ありがとう、ございます」

 お決まりの褒め言葉さえ、素直に受け取れず、私はつい俯きがちになる。

「すみません。お待たせしましたか?」

「いや、俺が少し早めに来てただけ。慣れないところで桜田さんをひとりで待たせるわけにもいかないし」

 私への気遣いのために先に来ていてくれたことに、心が浮上する。けれど、それと同時に、やっぱり苗字で呼ばれたことに勝手に心が痛んだ。その痛みを誤魔化すかのように頭を軽く振る。

「どうしたの? 大丈夫?」

「大丈夫です。待っていただいてありがとうございました」

 ここは素直にお礼を告げる、倉木さんの言う通り、この慣れない雰囲気でひとりで待つのはなかなか心細かったかもしれない。

 不慣れな私とは違い、倉木さんは慣れたものだ。その見た目の良さ、他の女性と何度も来たことがあるからなのかもしれないけれど、それを差し引いても倉木さんの雰囲気はとても馴染んでいる。

 さすがアッパーフロアの務め人と言うべきか。まじまじと改めて倉木さんの整った顔を見ていると、いきなりふっと微笑まれた。

「こちらこそ。待った甲斐あったよ。こんなに綺麗にしてきてくれるなんて思ってもみなかったから」

 瞬間的に頬が熱くなる。倉木さんのためじゃありません!っていつもみたいに返そうかと思ったけど、それを封じ込めるだけの破壊力があった。

 それに、やっぱり頑張ったことを、こんなふうに汲み取ってもらえるのは、なんだかんだで嬉しかったのだ。
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