エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 本当に付き合っているならまだしも、これは仕事として付き合ってもらっているのに、この質問はあまりにもナンセンスだ。

 沈黙が重くて、顔が上げられない。せっかくの初デートなのに自分で雰囲気をぶち壊してしまって、悲しくなってくる。倉木さんにも申し訳ない。

「俺の母親ね、三回離婚してるんだ」

  突然、告げられた倉木さんの家庭事情に私は、どう反応していいのか困ってしまった。窺うように顔を上げると、倉木さんは困ったような顔をしている。それでも、さっきのような刺々しさはなかった。

「しかも、それを悪びれもせず、自分で恋多き女だ、なんて言ってるから世話ないよ。べつに酷い扱いを受けたわけでも、金銭的に切迫した覚えもないから、好きにすればいいって思ってるけど」

 倉木さんはそこでグラスに残っているワインを軽く呷った。

「でもやっぱり子どもの頃は色々と複雑だったよ。母親のせいにするつもりはないけど、おかげでどうも本気の恋愛とか、結婚には消極的でさ。けれど、いい大人になって付き合うってなると、結婚を意識せざるをえないだろ。特に女の子はさ。だから、最初からこういう人間だって割り切ってもらってる方が有り難いんだ、楽というか……いや、それも言い訳か。結局、深入りするのが面倒で、怖いんだと思う。適当なんだよ、俺は」

 自嘲的な笑みを浮かべて倉木さんは髪をかき上げる。こんな倉木さんのやるせなさそうな顔を見るのは初めてだ。だから、なにか言わなくてはと必死で、私は考える暇もなく先に言葉が出てしまった。
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