エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「なら、ご希望に応えて、桜田さんのヒーローにもなれるように頑張るよ」

「は、い」

 胸が苦しくて、私はその二文字を声に出すのが精一杯だった。本当は私にとっても倉木さんはもう十分にヒーローだ。無茶苦茶な私の依頼を聞いてくれて、私のお見合いが成功するように付き合ってくれている。

 十分すぎるほどだ。そう思うのに私の胸はずっと痛みが消えなかった。

 それから、窓から見える夜景について、ふたりであれこれ方角とか場所を言い合ったりして盛り上がった。近くには同じような高層ビルが多く、なかなか迫力がある。

 ただ、おかげで見えるものは限られてくるが、それでもこの景色は早々お目にかかれない。

 肝心の料理も美味しく、私は車海老のポワレがとくに気に入り、もう一皿食べたい、なんて思うほどだ。順に運ばれてくるコース料理それぞれに舌鼓を打ち、最後のデザートとコーヒーまで堪能してお店を出ることになった。

「倉木さん、いつもご馳走になってばかりですみません」

 お店を出たところで私は頭を下げる。

「いいよ。初デートなんだから。それに、こういうときってなんて言うんだっけ?」

 悪戯っ子のような笑みを浮かべた倉木さんに私は前に言われた言葉を思い出す。

「夜景も素敵で、料理もすごく美味しかったです。ありがとうございます」

「うん。なら、よかった」

 ウインクひとつ投げかけられ、エレベーターがちょうどやってきた。倉木さんはこの後、一度デスクに戻るらしく、四十階で別れる予定だ。送っていってほしいなんて思わない。我々の付き合いはこのビルの中だけなのだから。けれど、
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