エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 ふたりきりのエレベーターで、私は背を向けて入口近くに立っている倉木さんに向かって思い切って声をかけた。

「あの、倉木さん。今日は夜景も料理もすごくよかったんですけど、でも、私、倉木さんとたくさんお話しできたことが一番嬉しかったです」

 言い切ったのと同時にエレベーターが四十階に到着した。心臓がばくばくと音を立て、なにも考えられない。返事なんて期待していないし、むしろいらないので、さっさとその背中を見送ろうと、顔を上げる。

 しかし、開いたエレベーターと共に視界に飛び込んできたのは、なぜか至近距離にいる倉木さんで、軽く腕を引かれると、体温を感じるのと共にスーツの香りが鼻を掠める。

「ありがとう、俺もだよ」

 囁くように、耳に直接届いた言葉に私は硬直する。倉木さんは私から離れると、閉まりかけるエレベーターの間から素早く降りる。そして、こちらに振り向いて、気をつけて、と一声かけてくれた。

 その顔はいつもの余裕のある表情で、私はドアが閉まりきるまでその顔から目が離せない。

 言い逃げするつもりが、言い逃げされてしまった。その場にずるずるとへたり込む。顔が熱くてくらくらするのは、きっとアルコールとエレベーターのせいだ。

「仕事の範囲外って言ってたのに」

 そう言って、質問を跳ね除けようとしたのに。なら、これは仕事の範疇なのか。けれど、範囲外と言っていた質問にも結局は答えてくれたし。
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