エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 心臓が潰れそうに痛い。どうしてこんな気持ちになるのか分からない。これがときめくとういうものなのか。こんな体験までさせてくれるなんて。

 途中でエレベーターが止まり、入ってきた人に不審がられないように、私は外に精一杯視線を送って赤い顔を誤魔化す。

 視界に入るのは、見慣れているエレベーターからの夜の光景。おかげで、少しだけ冷静さを取り戻せた。いちいち本気にしてはいけない。

 あんなこと倉木さんは言われ慣れてて、その証拠に、切り返しだってお手の物だった。私じゃなくてもきっと同じような態度をとったに違いない。私じゃなくても――。

 そう意識した途端に先ほどとは違う痛みが胸を襲う。けれどこの痛みの正体が何なんか分からない。自分の気持なのに、上手く折り合いをつけられないなんて。

 こんな複雑な気持ちを、どうすればいいのか私は知らない。倉木さんといると気持ちが乱れっぱなしだ。男の人と付き合うってこんな気持ちになることなのか。

 それでも勘違いしてはいけない。倉木さんが私にとってヒーローなら、ヒーローはいちいち助けた人のことなんて特別に思わない。

 ヒーローを必要としている人はたくさんいて、ヒーローは多くの人のために存在するのだから。私だって、特別になるのが困るから、こんな無茶な話を倉木さんにお願いしたわけだし。

 自分の立場を再確認したところで、エレベーターは一階にたどり着き、私はひとりでエントランスをくぐりぬけた。
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