エリート御曹司とお見合い恋愛!?
2.会話の基本は質問から
 眠たい目を擦りながら、会社に急ぐ。ついこの間まで、五時過ぎには空が白んできてたのに、少し朝がやって来るのが遅くなった気がする。

 それも曖昧だ。なんたって、いつもより一時間半も早い出勤なのだから。しかし、そのおかげか心なしか電車も空いていたので、いつもより通勤は快適だった。

 会社にたどり着き、多少の人の行き交いはあるものの、出社時間に比べると人の少ないエレベーターホールに向かう。いつもなら、アッパーフロア専用のエレベーターのボタンを押すところだが、今日は違う。

 別のエレベーター前に立ち、呼び出しボタンを押すと、ちょうど一階で待機していたらしくすぐに扉が開いた。そして私はなんだか申し訳ない気持ちになりながら、ひとつ上の階へのボタンを押す。

 指定された場所のドアを押すと、「おはようございます」と明るい声が響き、眩しい笑顔が向けられる。床は木目のダークブラウン、天井はわざとらしく剥き出しのホワイト。

 そこをいくつかの間接照明が内部を照らし、外国さながらの開放的な空間を演出していた。

 コーヒーのいい香りに包まれながら、注文を済ます前に、奥へと足を進める。完全に分煙となっている喫煙スペースの入り口手前のソファ席に相手はいた。

 近づく私に気づくと、倉木さんは読んでいた新聞から目線をこちらに向け、軽く手を上げてくれた。このビルの中だけでの付き合い、そんな制約のある私たちの交際は、基本的に倉木さんのペースに任せることにしている。

 なんたって彼の方が忙しいし、交際と言えども、私はあくまでも付き合ってもらっている側なのだから。
< 8 / 119 >

この作品をシェア

pagetop