エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「どうしたの?」

「今まで、私の無理なお願いに付き合ってくださって本当にありがとうございました」

 壁を背にして私は思いっきり頭を下げる。告白したときも、階は違うけれど、この非常階段でだった。今は非常灯しかついておらず薄暗くて、寒い。

 長居するような場所ではない。だから倉木さんがなにか言う前に私は言葉を続ける。

「この土曜日がお見合いですから。倉木さんにいただいたアドバイスを元に相手の方に気に入られるように頑張ってみます」

 自分の声がやけに響いて、俯きがちに捲し立てる。お礼を言っているのに、失礼なのは百も承知で私は倉木さんの顔を見ることはできなかった。耳鳴りがしそうなほどの沈黙が舞い降りる。

「美緒は、それで本当にいいの?」

 降ってきた声に、びくりと震えた。倉木さんは、私が顔も知らない相手とお見合いするということで、心配をかけてしまっていた。

「お気遣い、ありがとうございます。でも私はいいんです。ただ、相手の方に気に入っていただけるかが問題で……。こんなにまでしていただいたのに、倉木さんの期待に応えられるかどうか、分からないのも申し訳ないですけど」

 そのとき、後ろの壁を倉木さんが手を突くようにばんっと叩いて、私は反射的に目をつぶった。すぐそこに倉木さんがいて、私の鼓動は乱されていく。
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