エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 おずおずと顔を上げると、なんだか悲しそうな顔をしている倉木さんと至近距離で目が合った。

「期待に応えたいって、そればっかり。美緒の気持ちは? 美緒が本当に望んでいることは、そんなことなのか?」

 射貫くような眼差しになんだか、泣きそうになる。私が本当に望んでいること? それを望んでどうなるのか。

『俺は自分のスタイルを変えるつもりはないよ』

 倉木さんへの気持ちは、誰にも望まれていない。両親にとっても、お見合い相手の人にも、倉木さん自身にとっても。この気持ちは迷惑なもので、失望させるだけだ。だから、

「私の望みなんて、そんなの、そんなものいらないんです!」

 拒絶するように叫んだ声は非常階段に反響した。たまらなくなって私は、倉木さんをすり抜けて、その場を逃げ出す。

「美緒!」

 呼び止められる声を振り払い、駆けてビルの外に出ると、すぐに人混みに紛れ込んだ。お見合いして、好きになるなら、倉木さんみたいな人がいいと思った。

 でもそれは今となっては正確じゃない。倉木さんみたいな人がいいんじゃない、倉木さんがいいのに。

 それでも、いらないのだ、こんな気持ち。先ほど自分で言った言葉が深く刺さる。どうすれば消えるのかなんて分からない。

 こんなにも重たくて辛いのに。捨ててしまいたいのに、捨てたくない。こんな思いをするなら、叶わないのなら、恋なんて知りたくなかった。
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