エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 そんな彼からまず提案さえたのが、ビルの二階にあるカフェへのお誘いだ。お誘い、と言っても、倉木さんは朝早くに出社し、始業前にここでコーヒーを飲みながら過ごすのが定番なんだとか。それに同席することを私は許してもらえたのだ。

 周りは倉木さんと同じようにスーツに身を包んだ人々が大半で、思い思いに朝の時間を過ごしている。こういう朝の時間の使い方は、私には無縁だったのでなんだか落ち着かない。まだ制服に身を包んでおらず、私服だからか余計にだ。

「おはようございます」

「おはよう、なにか頼んだ?」

「あ、いえ。まだこれからです。私、ここに来るの初めてで……」

 職場内にありながらも、私はこのカフェを利用したことはなかった。昨年シアトルから日本初上陸のコーヒー専門店がここにオープンし、社内の人間はもちろん、社外の人も多く訪れている。

 おかげで、いつも混んでいるイメージが定着してしまい、足が遠のいていたのだ。同じフロアのコンビニはよく行っているけれど。

 カウンターまで戻って、注文の列に並び、上に掲げられた黒板に視線を走らせる。メニューだけではなく、多くの情報が載せられていて、私は少しだけ混乱した。

 コーヒー豆の種類だけでもたくさんある。本日のおすすめのコーヒー豆はコロンビア産のものらしい。他にもエチオピアやペルー、ウガンダから輸入されたものまであった。

 どれを飲んでも、おそらく味の違いが分からないのは、申し訳ないところだ。カウンターの向こうには本場エスプレッソマシーンが音を立てて豆を挽き、カップが所狭しと並んでいる。無難におすすめにしておこうか、と迷ったそのときだった。
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