エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 ホテルは、このビルの四十二階から五十一階を連ねているが、その中でも五十一階は特別感が漂っていた。ひとつのドアからドアまでが遠い。

 部屋に番号を割り当てられているのが普通だが、この階の部屋は、どれもチェスの駒の名前が割り振られていた。倉木さんの部屋は「Knight(ナイト)」だった。

 なんとか部屋にたどり着きノックするも、中から返事はない。なので、私は預かったルームキーで重厚な扉を開けることにした。

 ドアを開けると、そこは私の知っているホテルではなかった。誰かの家にでもお邪魔したような感覚。モダン柄の絨毯に靴音はそっと消される。

 さらに扉を開けると、白を基調とした空間が広がり、真ん中にダイニングテーブルのようなものが置かれていた。アームチェア、カウチソファの類はベージュでまとめられ、格式高い雰囲気を醸し出している。

 これでKnightなのだからKingやQueenの部屋はどうなっているのか。それに、ここは何人で泊まることを想定して作られた部屋なんだろう。

 そこで我に返る。今は内装にうっとりしている場合ではない。奥に足を進めるとベッドが目に入り、近寄るとツインベッドのうちのひとつに、倉木さんが息を荒くして横になっていた。

 その瞳は固く閉じられているが、眉はしかめられ、どう見ても辛そうだ。ベッドの傍らにあるサイドテーブルに買い物袋を置いて、急いで袋の中身から、買ってきたものを取り出す。

 薬や冷えピタ、スポーツドリンクにゼリーなど、宮川さんから連絡を受けて、近くのドラッグストアで適当に買いそろえたものだけれど。
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