エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「いい」

 強く否定されて体が震える。これ以上、余計なことを言うべきではないし、するべきではないのだ。私は倉木さんから視線を逸らして、静かにここから立ち去ろうとした、そのときだった。

 いきなり左手がとられて、ベッドの方に強く引かれた。よろけそうになるのをとっさにベッドに手をついて受けとめる。触り心地のいいリネン地にほっとする間もなく、さらに倉木さんの方に体を引かれて腕を回された。

 触れたところから伝わる体温はかなり高い。呼吸も荒くて、この状況よりも、倉木さんの体調の方が心配になってくる。

「訂正する。お見合いは明日だから、今はまだ美緒は俺の恋人だろ」

 熱い吐息混じりに囁かれた言葉に、私はつい顔を上げる。すると、熱のため、潤んだ瞳でじっとこちらを見据えている倉木さんと目が合った。その距離はいつになく近い。

「だから、美緒がいてくれたらそれでいい」

 逸らすことなくまっすぐに告げられた言葉に私の体温も上昇しそうだった。頬に触れられた手は、じんわりと汗ばんでいて、それでも不快な気持ちなんてひとつもない。

「私が来たこと、嫌だったんじゃないんですか?」

 震える声で尋ねると、倉木さんはやはり少しだけ怒った表情になる。

「嫌とかそういうことじゃない。前にも言わなかったっけ? こんなふうに言われたからってあっさり男のところにきて、無防備すぎるのもほどがあるよ。そんなに奪われたい?」

 なにを?と尋ねる前に倉木さんが、触れていない方の頬に軽く唇を寄せた。目を見開いたまま固まっていると、唇を親指で優しく撫でられ、倉木さんの顔が近づいてくる。
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