エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 目を閉じることもできずにいると、温もりは唇ではなく、すぐその横に感じた。唇すれすれのところに口づけされ、私はパニックになりそうだった。そんな私を倉木さんが自分の胸に閉じ込めるように抱きしめた。

「あー、もう。本当に……」

 やるせなさげに言われて私は、意味が分からないまま泣きそうになる。しばらくそのまま沈黙が続いた。抱きしめられて伝わってくる倉木さんの鼓動音に安心しつつ、自分の心臓は破裂しそうに強く打ちつけている。

「とりあえず薬をもらってもいいかな?」

 沈黙を破ったのは倉木さんの方で、私はゆっくりと解放された。ここに来たそもそもの意味を思い出し、ベッドから腰を浮かすと手早く支度をする。

 食欲はないとのことなので、ミネラルウォーターとは別にスポーツ飲料もグラスに注いだ。本当は病院で処方してもらう薬が一番効くのだが、そうも言ってられないし。

 薬を飲んだ倉木さんは、おとなしくベッドに横になっている。とにかく熱が下がってくれれば少しは楽になると思うんだけど、今は眠ることが一番だ。

 そして急に手持無沙汰になった私は、この後どうすればいいのか迷った。宮川さんにルームキーを返しに行くべきか。

「帰る?」

 そのとき倉木さんが顔だけこちらに向けて、力なく尋ねてきた。その顔が、なんだか寂しそうで、どこか子どもみたいで。

 私はそっと倉木さんの額に自分の手を置いてみる。やはり熱くて、倉木さんは目を細めて黙ったまま受け入れていた。

「倉木さんさえよかったら、眠るまで、そばにいていいですか?」

「そんなこと言われたら眠れないな」

 やや軽い口調で返されて私は、苦笑した。
< 96 / 119 >

この作品をシェア

pagetop