エリート御曹司とお見合い恋愛!?
「ちゃんと眠ってください」

 それから私はしばし迷ってから、ベッドを離れて自分の鞄を取りに行く。このタイミングはどうかと思ったが、今を逃したら次はいつになるか分からない。

 倉木さんは不思議そうに私を目で追っていた。そんな倉木さんのそばに再び寄る。

「あの、倉木さん。こんなときにすみません。よかったら……」

 私は鞄から取り出した封筒をおずおずと差し出した。倉木さんは顔をしかめながら体を起こすと、訝しげにそれを受け取ってくれる。そして中身を確認した途端、その大きな目がさらに大きく見開かれた。

「これ、どうした?」

「並んじゃいました」

 信じられないという顔をする倉木さんに私は短く答える。それは倉木さんと宮川さんが話していたバンドのライブチケットだった。

 たまたま見ていたファンサイトの情報で、今日が発売日ということを知ったので、思い切って並んでしまったのだ。ちょうど有休をとっていたし。

「並んだって何時から? 女の子がひとりで、なに考えてんの!?」

 まさか怒られると思わなかったので私は少しだけ怯んだ。前日から列を作るのは禁止ということで、日付が変わってから出かけたのだけれど、すでに並んでいる人が多くて驚いた。

 並び方の心得やポイントなどはファンサイトに事細かく書かれていたので、そこまで困らなかったし。ただ、寝不足と足が痛いのは否めない。あと、ものすごく寒かった。

「でも、わりと女性の方も多かったですよ。前後の人と仲良くなって、色々教えてもらいました」

 倉木さんは体調のせいか、呆れているのか、首を九十度に曲げて項垂れている。なんだか、余計なことをしてしまったのかと不安になってきたそのとき、ぽつりと呟かれた。
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