エリート御曹司とお見合い恋愛!?
 さっきよりも正面から腕を回されたので、密着度も高い。どうしよう、どういうつもりなんだろう。倉木さんも熱いけど、私も十分に熱いと思う。心拍数の上昇が止まらない。

「美緒はさ、期待に応えたいって言ってたけど、俺はこっちの方がよっぽど嬉しいよ。美緒が自分で考えて俺のためにしてくれたことが」

 吐息混じりに紡がれる倉木さんの言葉が、耳だけじゃなく心に響く。

「親にしたって友達にしたってそうだろ。美緒が、自分の欲しいものや本当に望んでいるものを我慢してまで応える期待に意味なんてあるのか? 仕事じゃないんだ、期待するのは、期待に応えたいっていうのは相手が好きだからなんだよ」

 そこで倉木さんが言葉を区切ったので、私はそっと顔を上げた。倉木さんが顔を寄せてきたので至近距離で視線が交わる。

「だから、自分の望みがいらない、なんてそんなこと言うな」

 相変わらず、子どもに言い聞かせるみたいだ。優しく頬を撫でられて、なんだか私の視界が勝手に滲んでいく。

 期待に応えようと必死で、そればかりで、私は自分で考えることを放棄していた。それさえ叶えれば、それが叶わなければ、そんなふうにずっと思っていた。

 でも倉木さんが私のために、ってしてくれたことが、なによりその気持ちが嬉しくて。私もなにかできないかって必死で考えた。

 零れそうな涙を、そっと指先で拭ってくれたので、複雑そうな表情の倉木さんの胸に顔を押し付けて、私は思い切って背中に腕を回してみた。倉木さんは拒否することなく、抱きしめ返してくれると優しく頭を撫でてくれる。

 今、何時だろうか。まだ日付が変わっていないなら、ここはビルの中だから、だからまだ私は倉木さんの恋人でいてもいいんだろうか。

 もし本当の恋人なら、唇にキスしてもらえたのかもしれない。でも、十分だ。倉木さんは十分すぎるほどのものをくれたから。
< 99 / 119 >

この作品をシェア

pagetop