苦い蜂蜜
言い方を悪く言えば、この正体不明の男は初めから私に馴れ馴れしかった。

ー伽耶ちゃんは何歳?

「25歳になったばかりです。」

ーそっかぁ。じゃあ二個俺の方が年上だ。

「失礼ですが、あなたの名前は?」

ーまひろ。川端まひろ。結構女みたいな名前だねって言われるんだけれど。

「ご職業は?」

ーなんて言えばいいのかな。便利屋って感じ。

ふぅーん、ってなにしてるんだ。こんなところで私は。スマホには病院から10件も電話が入っていた。

「川端さん、ごめんなさい。私仕事サボってきちゃったので、行かないとっ。」

運が悪く再びスマホが鳴った。

ー辞めちゃいなよ。そんな仕事。

「えっ?」

気付いた時にはまひろは私のスマホを手に取って勝手に電話に出た。

ー安藤伽耶ですけど、仕事辞めますね。

「勝手になにするんですか!!!」

電話を切って、まひろは言った。

ー楽しくない仕事なんか辞めちゃえばいいよ。
もっと稼げる仕事紹介するよ。ほら、来て。

まひろの腕が私をさらった。まひろの後ろ髪が風になびくのを眺めながら、彼についていくしかなかった。突然無職になった私は、それでも
何だか期待すら感じていた。
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