【完】君しか見えない
「はぁ〜〜、ねみぃ」
「……へっ?」
予想外の発言に、私は思わず素っ頓狂な声をあげる。
「食べ過ぎたら、急に睡魔が襲ってきたんだけど。
ハヤシライスよそりすぎだっつーの、ばーか」
「え、あ、ごめんね……?」
流されて謝るものの、展開の早さについていけずに混乱する。
私の肩から顔をあげた楓くんは、いつもの飄々とした楓くんだった。
「もう遅いし、そろそろ帰った方がいいんじゃねーの?
俺も眠いし」
「うん……」
食器を持ち、キッチンに歩いて行く楓くんの後ろ姿を、その場に立ち尽くしたまま見つめる私。
なにごともなかったかのように振る舞ってるけど、
……違う。
私は、楓くんの額が触れた肩に、そっと手を当てた。
だって、体が忘れられない。
「楓くん……」
楓くんの体の、微かな震えを。