【完】君しか見えない
「ただいま」
太陽が一日の仕事を終え、山際に沈んでいく頃。
17時になり、バス待合所に楓くんが姿を現した。
「おかえり」
長椅子に座って楓くんのことを待っていた私は顔を上げ、そう返した。
だけど、いつものように笑顔は浮かべられなかった。
「……楓くん」
入り口のところで欠伸をしていた楓くんが、口に手の甲を当てながら眠そうに答える。
「なんだよ」
「楓くんの高校……閉まってた」
「え……」
「私、今日行っちゃったの。
楓くんの高校に……そしたら……」
楓くんの目が、じわじわと見開かれていく。
ピンと糸が張り巡らされたような緊張感が、静かで小さな木の空間に走る。
──校門に設置された立て看板。
そこには、こう書かれていた。
『冬季講習終了後、12月28日以降の校内への立ち入り厳禁』