【完】君しか見えない






──5歳のクリスマスイブ。



その日、幼稚園から帰って来た後に一度家に帰ってから、十羽とふたりで遊ぶことになっていた。



幼稚園バスを降車し、今日はなにして遊ぼうかな、なんて考えながら帰宅すると、鍵は開いているのに家にはだれもいなかった。



『ただいまぁ。
〝か〟のつく子がただいまだよー!
おかあさーん?』



クリスマスイブということもあり、うきうき気分で声を上げるのに、母の声は返ってこない。



いつもは、おかえり、そう返ってくるはずなのに。



不思議に思って、脱いだ靴はそのままにリビングへ向かう。



だけどリビングにも母の姿はなかった。



代わりに、テーブルの上に1枚の紙が置いてあった。



読めるようになったばかりの文字。


『さよなら』


そこに書かれた、たった4文字が、読めてしまった。



その字には見覚えがあった。


間違いなく、母の字だった。





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