【完】君しか見えない


千隼くんが吐き捨てるように言う。



『こんなとこで会うなんて、ちょうどよかった。
あんたに話すことがあったんだ』



『え?』



垂れがちな目をすうっと細め、俺を睨むようにして、ぐんぐんとこちらへ近づいてくる。



俺は思わず後ずさり、背中が校門にぶつかった。



だけどそんなことお構いなしに、さらに距離を詰めると、千隼くんは自分より大きい俺を見上げ、まっすぐ強く睨んだ。



『あんた、もうあいつから離れて』



『……ち、はやくん』



千隼くんの言うあいつが、十羽のことを指しているのだとすぐに察知する。



『平和ボケしてるあんたは気づいてないだろうけど、あんたのせいで、あいつは傷ついてる。
苦しめられてる』



千隼くんは、十羽がいじめられていることを気づいていたらしい。



ひとつひとつの言葉が、まるで胸に突き刺さる鋭利な刃物のようで。



でも、なにひとつ、罪のある刺傷なんてなかった。

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