【完】君しか見えない
俺に軽蔑の視線を向けたまま千隼くんが去って行き、入れ替わるように十羽がグラウンドから駆けてきた。
『楓くん、おまたせ!
ごめんね、ちょっと掃除当番が長引いちゃって』
『ううん、帰ろっか』
『うん』
十羽の顔が見られない。
だけど、話しかけてくる十羽のテンションは、いつもより持ち上げられているように感じる。
もしかしたら、いつもと違う俺の様子に気づいてるのかもしれない。
数学の時間に起きた珍事件の話を終えた十羽が、ふと思い出したように訊いてきた。
『そうだ、楓くん。
昨日言ってた、話したいことってなに?』
『……』
俺が足を止めると、十羽も不思議そうに足を止める。
……昨日話したかったことは、もう伝えられないことだから。
『十羽。明日から登下校は別にしよう』
目を伏せたまま、一息に言った。
抑揚をつけないように、あくまでも事務的に。
そうしなければ俺の気持ちが流されそうだった。