【完】君しか見えない


『……っ、びっくりしたよ〜!
改まってそんなこと言うなんて』



元気を装う声が涙に濡れてることに気づき、抱きしめたくなって、思わず手を伸ばす。



だけど我に返り、その手は触れる寸前で握りしめた。



『あ、の、ごめんね、ちょっと用思い出したから、先帰る……っ』



この場にいることに耐えられなくなったのか、バレバレの出まかせを言って、目を合わせないまま十羽が逃げるように走り出す。



遠ざかっていく十羽の背中。



近くの踏切で、間も無く電車が通るのを知らせる警報が鳴り始めた。



『十羽っ……』



たまらなくなって思わず声を上げていた。



十羽が足を止め、振り返るのと同時に、電車がすぐ横を駆け抜けて行く。



そうして騒がしい轟音が、すべての音を消し去っていく中。


『──好きだよ、十羽』


俺は告白の言葉を紡いでいた。

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