【完】君しか見えない
聞こえることも、届くこともない告白。
轟音が、俺の声を跡形もなく攫っていった。
やがて電車が走り過ぎ、再び痛いほどの静寂がやって来る。
『楓くん?なにか言った……?』
『……ごめん、なんでもない』
笑顔を取り繕ってそう言うと、十羽は目を伏せて唇を噛みしめ、また走って行ってしまった。
『ほんと……なにしてるんだろ、俺』
ひとりになり、ぽつりとつぶやいて空を仰げば、熱い涙がこみ上げてきて、目に腕を当てた。
宝物。
たったひとつの宝物。
『十羽は俺が守るよ』……なんて、なにが守るだよ。
実際はこれっぽっちも守れていなかったくせに。
それに気づきもせず、さらにどん底へ突き落として。