【完】君しか見えない
幸せだなって、つい昨日話しながらふたりで歩いていたこの一本道は、今はもう温かな空気が流れていたことが嘘だったかのように、冷たい風を纏っていた。
いや、実際は温かい空気なんて、最初から流れていなかったのかもしれない。
幸せな気持ちは、俺だけ。
俺だけ浮かれてた。
現実を知りもせず、ひとりで幻想に浸っていた。
『ごめん、十羽……』
俺が幼なじみで、ごめん。
涙はひたすら頬を濡らし、風がそれを冷やした。
それから、俺たちの間には距離ができた。
クラスも違い、登下校も一緒じゃなくなると、今までの日々が嘘だったかのように会わなくなった。
そして、中2の冬。
十羽は突然、姿を消した。
なにも言わずに出て行った母と同じように、俺を独り取り残して───。