【完】君しか見えない
「楓くん……」
後ろから抱きしめていると、十羽に名前を呼ばれ、ハッと現実へと意識が引き戻される。
戸惑っているような、混乱しているような、緊張しているような、そんな声。
すぐそこから聞こえる、大切な、幼なじみの声。
今すぐ近くに十羽がいるのだと改めて実感した途端、心の奥に押し込めていた気持ちが、蓋が外れたかのように込み上げてくる。
「……ずっと隠してきたけど、もう限界」
「なにが? どういうこと?」
……え。にっぶ。
抱きしめながら、鈍感な幼なじみに思わず引く。
会いたかっただの、俺けっこー本音言ってんだけど。
おまけに、この体勢。
おまえ、抱きしめられてるよ?
ここまでしてもわからないとか、〝ただの幼なじみ〟って刷り込み、すげーな。