【完】君しか見えない


「悪い、用できたから帰るわ。
気をつけて帰れよ」



そう言って、私の目を見ないままパッと離される手。



え……? 楓くん、行っちゃうの……?



せっかく再会できたばっかりなのに。



「ま、待って……っ」



思わず伸びていた手が、楓くんの制服の裾を掴んでいた。



今楓くんから離れちゃいけない、そう思ったら勝手に手が伸びていて。



一瞬、ふたりの間に流れる時間が止まって、静寂が訪れる。



すると、楓くんがこちらに背を向けたまま、静寂を破った。



「──さっき十羽は俺のこと変わってないって言ったけど、変わってなくねぇよ」



「え?」



私が頼りない声をあげた次の瞬間、楓くんがこちらを振り返る。


と同時に迫るように手が伸びて来て、私の顔の横をかすめたかと思うと、背後の塀にドンッと当たった。



「……っ」



気づけば、私の体は塀と楓くんに挟まれていて。

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