【完】君しか見えない
だけど中学の時は、楓くんがいじめに気づいたことを、少しも知らなかった。
距離を置かれて、嫌われたと思い込んで。
だから、引越しの日。
私は楓くんにさよならを言えなかった。
離れ離れになることを、これっぽっちも悲しんでくれなかったら、
「むしろせいせいする」なんて言われたら……。
そう考えたら、恐怖心に負けてしまったんだ。
でも、楓くんに会いにきて、やっと気づいた。
そんなこと、あるはずなかったって。
だって、私はいつでも楓くんの優しさに守られていたのだから。
ごめんね、楓くん。
優しさに、気づいてあげられなくて。
なにも言わずに離れて、君を傷つけて──。