【完】君しか見えない
身動きが取れない状況に混乱しながら視線を上げると、私を見下ろす楓くんは冷酷な笑みを浮かべていた。
「十羽さ、油断しすぎ。
幼なじみだからって、俺がなにもしないとでも思ってる?
男の力、みくびんなよ。
十羽みたいな弱い力じゃ、力づくでどうにでもできる」
楓くん、突然どうしたの……?
「でも……でも、楓くんはそんなことしない」
騒がしい鼓動をどこか遠くで聴きながら、私はまっすぐに楓くんの瞳を見返した。
昔から優しかった楓くん。
人を傷つけるようなことは、絶対しない。
すると、楓くんは長い睫毛を伏せ、形のいい唇だけを動かした。
「俺はもう十羽が知ってる楓じゃねぇから」