【完】君しか見えない


私を見下ろす楓くんの瞳を、息もつかずに見つめること、数秒。



やっとのことで状況を理解した途端、カァッと頬に熱が昇り、鼓動が騒がしくなる。



「か、楓くんっ……?」



上から私を見下ろしてくる楓くんの瞳は、熱っぽくて色っぽくて。



「俺には? ドキドキ、してんの?」



「え……?」



「俺は壁ドンなんかより、もっといいことしてやれるよ。
おまえのことドキドキさせるのなんて、簡単だから」



艶のある声で囁き、きゅっと口の端を上げて余裕げな笑みを浮かべる楓くん。



「……っ」



思わず声が詰まる。



甘い蜜で誘って、私の心を絡め取ってしまうようだ。



そんなのずるい……。

ドキドキしないわけないのに……。

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